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創業100年を越え
単に物を売るのではなく、
その背景にある文化を伝え、
人と人を繋げる存在へ

株式会社桑原商店

回答者
代表取締役 桑原 康介
事業内容
酒販業、飲食業、文化交流事業

コロナ禍で人との交流にブレーキ

創業106年の家業は五反田でずっと酒販店を営んでおり、私は4代目です。祖父の代は戦後に焼き鳥や気軽に飲める酒を出す飲食店もやり、父の代は五反田で最初のコンビニエンスストアを始めました。

私は大学卒業後、国際芸術祭やアートプロジェクトの企画や運営に携わる仕事をしていました。様々なプロジェクトを経験する中で、里山プロジェクトを手がけて各地の小規模な生産者の方々と向き合うこともありました。その中で家業を継ぐとしても、単にお酒を仕入れて右から左へ流すような商売はやりたくなかった。蔵元はアーティスト、日本酒はアート作品、酒屋はギャラリー。家業を継ぐことになった時にその思いで、新たなスタイルの店を作る計画を立て、1年半ほどの間、建築家、アーティスト、デザイナー、食の専門家、蔵元などを呼んで酒店の倉庫でワークショップを実施。そこでいろいろな知恵や意見を得て、倉庫を改装して立ち飲みができる酒販店として2018年にリニューアルオープンしました。多くのメディアで紹介され口コミも広がり、コロナ禍以前は世界中の国からいろいろな職業の人たちが集まり、文化交流ができる場所になっていました。日本人のお客様もそこに加わり、ビジネスマッチングや文化交流の場に。それこそが私が目指していた店の形でした。

もう物だけを売る時代ではない。私が社長になってから、当社の事業に新たにアートやデザインをマネジメントする部門を加えました。当社は情報を仕入れて、その情報を世の中に差し出し、そしてまた情報が入ってくるというビジネスモデル。そしてそこに関わった人たちが繋がっていく。そんな人の繋がりを大切にし、ご縁に感謝する。貨幣経済ではなく感謝経済を大事にしています。そして、その中から得たものをどのように社会に還元できるかを常に考えています。自由が丘の再開発プロジェクトなど、街づくりに関わっているのはそうした思いからです。私が得た知識や経験を若い世代にも届けたいので、いくつかの大学で社会学としてコミュニティやボランティア論などを教えることもしています。

コロナ禍で一番困ったのは、感染防止対策のため、人と人とのリアルなコミュニケーションの場がなくなり、お客様同士を繋げられなくなったこと。いろんな企業やいろんな人と触れ合いながら、いろんなことをやって、情報を仕入れて社会に出していくやり方をしている当社にとって、集まれない、会えないという大きな課題が立ちはだかったのです。

100年以上の社歴から学ぶ、バタバタしないという乗り越え方

私の仕事におけるモットーは、関わる人たちがストレスなく安全な環境で楽しくやれること。当社に関わる人たちを守るために、感染防止対策はいち早く徹底して行いました。2020年4月の緊急事態宣言が出る1カ月以上前から感染対策の専門家と店内でのリスクの検証を行い、この時代における感染症防止対策とはどういうものかを建築家やデザイナーと議論し、様々なパターンを考えてみました。そして、最適だと思うあり方を見出し、立ち飲みできる酒店に徹底的した感染防止対策の工事を行い、一見するとインテリアデザインに思えるような飛沫防止ガードをつけるなどしました。検温、アルコール消毒はもちろん、3分に1回は店内の全ての空気が入れ替わります。お客様に強制するのではなく、店=空間側で感染防止をコントロールする方法に取り組んでいます。

コロナの影響で売上は落ち込みましたが、短期的な観点よりも長期的な観点で考えることが非常に重要だと考えています。小手先でやれば目先の売上は伸ばせますが、それよりも10年スパンで経営を捉えていますから、今はバタバタしません。当社の100年以上の歴史を振り返ると、初代が創業して5年後くらいにスペイン風邪が流行り、それから関東大震災があった。祖父の時代には戦争があり、父の時代にはバブル崩壊など金融の非常な波があり、流通も物流も大きく変わった。そうやって長いスパンで見ていくと、災害や社会経済の改革はある一定のタイミングで起きているとわかります。

私の父も祖父も曽祖父もみんなそれを乗り越えて来たから今の私があり会社がある。だから、私もうろたえることはなく、今は落ち着いて考えたり書物を読んだり人の意見を集めたりして知見とエネルギーを蓄積し、いざ好機が来た時にそれを一気に形にしていく。今はそれを待つ時期だと捉えています。そして、社長に就任した5年前から財務の健全化に取り組んできて、売上は減っても利益率を高める方向に舵を切っています。そうやって確実に利益を生み出し、様々な人が楽しく関われる企業でありたい。そこで得た利益は社会に還元していく。例えばアーティストの活動をサポートしたり、蔵元と一緒にいろんなことを企画したり、というように循環させていくことが当社の役割だと考えています。

オンラインとオフラインのクロッシングを考える未来に向かって

東京2020大会は、スポーツや文化の交流ができる祭典として何年も前から非常に期待していました。今回海外のお客様が来られないのは残念ですが、今できる範囲でやることが大事だと思います。テレビで観戦するだけでなく、SNSやデジタルツールを活用するなど、今までと違う思考回路でやれることを考える。そうやって開催することが次の時代を切り開くはずです。

「3月11日にシャボン玉を飛ばしながら歩いて家に帰る」という活動をしているアーティストがいます。東日本大震災の時、東京でもみんな歩いて帰宅しました。その震災体験が数年経つと風化していく、それを忘れないために毎年3月11日はシャボン玉を吹きながら歩いて帰ろうという趣旨です。その趣旨に賛同し渋谷から上野まで歩く、当社から歩くとか、毎年恒例の活動としてやって来ましたが、今年はコロナ禍で大勢が集まって歩くことは難しい、でも中止にはしたくない。できる方法として各自が思い思いの場所でシャボン玉を吹き、被災地に思いを馳せることにしました。活動を繋げていくことで何か違うところに結びついていく、東京2020大会も規模が変わってもやる、やれる範囲で歩みを進めることがレガシーになっていくと思います。

今はオンラインとオフラインが分離されています。人々はオンラインの良さがわかった一方で、逆にリアルに会うオフラインの恋しさも感じています。しかし、従来通りのレベルでリアルを求めることはもうないのではないか。例えばオフライン7割&オンライン3割のような新しいコミュニケーションのあり方になるのでは……それをどのように当社の事業に取り入れていくかを考え、形にしていくことがこれからの私のするべき仕事。当社はお客様の顔が見えないでただ物を売るだけの商売になる事を懸念してECサイトを開設していなかったのですが、当社だからこそできるECもあるのではと考えるようになりました。どうしたらバーチャルな環境とリアルなものを程よいバランスでやれるか。それを模索し、人と人を繋ぎ情報を社会に発信していく当社らしい新たな形ができるようにと取り組み始めたところです。そして10年後は、今の私が想像していない形でやっている会社であってほしい。そんなことを描くとワクワクします。

  • 企業名 株式会社桑原商店
  • 所在地 〒 141-0031 東京都品川区西五反田2-29-5 桑原ビル
  • 創業年 1915年
  • 従業員数 8人
  • 業種 卸売業
  • URL http://to-plus.jp